長辺110mm 短辺105mm 高27mm
江戸初期、九州肥前地区で磁器の製造がはじまりました。親方・窯主の下にロクロ成形、下絵、上絵、窯焚きの各職人が就くという分業システムができて、効率的な生産がおこなわれます。ロクロは男にのみ許された職分で、その為の株を持たないと仕事に就けません。株制度は技術レベルの保持と、生産量の調整を兼ねていたと思われます。それと株を買う為の貯金がある=信頼できる、という理屈もあるのでしょう。
現代と比べればはるかに封建的な400年前のことです。藩の大きな財源になっている当時のハイテク業界(磁器の製造は最先端技術の匿秘事項で、他の窯業地からスパイが潜入したほど。これは本当)に女性の働ける場所はありません。家事を専らにしながら、準備や片付け、掃除などの補助作業がせいぜい、という時代でした。
その頃のお母さんおばあちゃんが夜なべ仕事に作ったのが、糸切り成形ではないでしょうか。という話を、たしか浜野さんから聞きました。なるほど、ロクロを使わない成形法なので株は要らない。それに親方が目くじら立てるほど大量に作れるものでもないし(糸切り成形が大量生産に向かない手法、ということは昔も今も同じです)。その時代にお母さんおばあさんが作った糸切りのうつわは、内職仕事とは思えないほど精緻で愛おしいフォルムをしており、現代のわれわれを魅了します。根気強く打ち込む迫力が見る側の胸を打つのでしょう。それは浜野さんのうつわにも通底している魅力です。