口径72mm 高60mm ※共箱共布付
釉薬が薄掛けなので、素地の色がわずかに透けて見えます。全体が赤みがかったグレーをしており、色見本で名前を調べたら『牡丹鼠(ぼたんねず)』という色が近いようです。低彩度の中間色は、和名での分類がいちばん詳しく(ネットで調べたうえでは)、それは和服や日本画などの文化を持つ日本人の国民性なのかもしれません。明るいところは『今鳩羽(いまはとば)』の色に似ています。鳩羽鼠の今様、という意味でしょう。こんな地味な色が流行った時代があったのだろう、と思わせるいい名前です。
薄掛けの器肌に、ところどころ流れた釉薬が溜まって景色になっています。釉薬が、三筋の線になって流れた個所が正面と思われます(ちょうどそこが火前=窯の中で焚き口に向かっている面、なので)。そうすると自ずと飲み口が決まります。『ぐい呑み』の名称は、そもそも北大路魯山人の考案したもので、鑑賞のポイントを茶碗になぞらえて解説し、ぐい呑みの地位向上に大きな貢献をしました。たしかに造形、釉薬や焼成で生まれる景色、土味など、茶碗づくりに練達した陶芸家のぐい呑みは、存在感が強くて見どころが多く、『時間をかけて愉しめるうつわ』と言えましょう。